DISSIDIA SAGA
サンプル
 ギルド内に備えられている自室へと戻ったバッツは、ガブラスから手渡された依頼書に目を通していた。そこに書かれた内容に、バッツは不思議そうに首を傾げた。
「これ、本当におれでいいのか?」
 依頼書を掲げて見せると、ガブラスは先刻から変わらぬ仏頂面で頷いた。
 確かに内容としてはあまりにも平凡だ。ほんの数日で終わると予測されるほどに、タナトスにとっては簡単だとでも言うのだろう。そう、返事を返されると思っていたガブラスは、続く言葉に微かに表情を変えた。
「うわ。結構かかるかも知れない?長期だと、ボコに会えなくなるから嫌なんだよなぁ」
「その依頼がそんなに難しいか?」
 ガブラスの問いかけに、バッツはやはり首を傾げつつ、「ん〜」と唸った。
「いや。これだけ見ると普通」
「なら…」
「勘?なんか、やな感じがするんだよなぁ。これ。何かある感じでさ」
 依頼書を折りたたんで遊びながら、バッツは相変わらずのとぼけた表情で虚空を見つめている。その表情の中で、灰空の瞳だけが真剣な色を移していた。本人の乱雑さに反し、必要最低限の物のみが置かれた生活感のない部屋。その相反する性格こそが彼をこのギルドで最高の暗殺者たらしてめているものなのかも知れない。
「お前の勘と言うのは当たるのだろうな?」
「当たるって。おれのっていうと信用低いかもだけど。僕の勘でもあるからな」
 バッツの言葉に、ガブラスが納得したように声を上げた。その様子を眺めていた青年は、どこか寂しそうに笑みを浮かべた。
「用意が整い次第出発するよ。多分…今月の最後くらいには出られる」
「了解した。先方にはそのように伝えよう。くれぐれも遅れるなよ」
 ガブラスはそういうと、鎧の音を響かせながらバッツの部屋を後にした。ガシャンという重く冷たい音を聞きながら、バッツはその口元に冷笑を浮かべていた。
「簡単な依頼な訳ないだろ。たかが領主と補佐官暗殺するのに、これだけの金額出すほどだっていうのに」
 示された金額を眺めながら呟く。一般の人々が一月に稼ぐ金額の優に十倍は超えている。それだけのものを出しても構わないとされるほどに、これを差し出した人々は領主の死を望んでいるということだ。
「そんだけ人に嫌われるってのも、才能だよなぁ」
 ベッドに横になりながらバッツは一人ごちた。
「明日は、久々にボコと遊びに行くか…。暫く離れ離れだしな」
 幼い頃からずっと相棒として生活してきた、チョコボの姿を思い浮かべ、バッツは静かに目を閉じた。

copyright : Shino Muthuki
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